セルフ・セラピストとして活動するようになると、一般の会社員の方はもちろん、起業家を志望して勉強中の方、既に個人事業主や中小企業の経営者として活躍されている方などとお会いする機会も増えました。

初めてお会いする方ですから、当然にお互いに自己紹介をすることになるのですが、時折、こう訊かれることがあります。

「やなぎさんは、どんな資格をお持ちなんですか?」

おそらく心理系で最も有名な資格である臨床心理士、国家資格として新設された公認心理師をはじめとして、心理系の資格は乱立状態にあります。乱立状態のため、いわゆるカウンセラーを目指そうとする人にとっては、何が一番いい資格なのか分かりにくい状況です。

で、そう訊かれたとき、私はいつもこのようにお答えしています。

「独立してビジネスをしたり、会社を設立して経営することに『資格』は必要ですか?それと同じことです。」

資格を得ても現場では通用しない

予め断っておきますが、私は、資格そのものや資格を取ること自体を否定しているわけではありませんし、有資格者の方々を批判するわけでもありません。

ただ、資格の有無にかかわらず、「カウンセラー」「セラピスト」「コーチ」など、人の心を扱う職業を名乗っている人の多くが、資格を持つことで現場でも使える知識を得たと大きな勘違いをしています。

心理学や心理療法の知識も、現場で実践を重ねることではじめて活きた使い方ができるようになります。人の悩みや心理状態は十人十色であり、その場でお話を聴いてみなければ分からないことだらけです。

私は、法律の専門家として職務に従事したから分かるのですが、大学の法学部に入りたての学生は、法律用語を学ぶと不必要に日常生活でも使い始めます。まるで子供が新しく買ったおもちゃで遊ぶかのように。

つまり、専門的知識を机上で学んだだけの者は、その用語などの示す意味を真に理解していません。ここまで書いてきたことをお読みになると

「実際に話を聴く訓練をする、臨床の時間を設けているのだから十分じゃないんですか?」

と思われるかもしれませんが、それでは不十分であると言わざるを得ません。私は法律事務所で数多くの事件を扱い、現実の複雑な込み入った人間関係を見てきました。だからこそ、厳しく申し上げているのです。

経営者は気づいてしまう、なのに・・・

経営者であれば気づくようになります。自分自身の心と向き合うことの重要性を。

たとえブレーンがいたとしても、最終的には自分で決断を下さなければならない。誰かに答えを求めることもできない。そんなとき、自問自答していくと自然と自分自身の在り方を考え始めます。

経営者は、ビジネスを継続させ会社を存続させることで、従業員の人生を守り預かっているというとてつもない責任を背負っています。それだけの「覚悟」をもっているため、ストイックにならざるを得ません。ストイックになるからこそ自分自身の心と否応なしに向き合うことになります。

翻って、「カウンセラー」「セラピスト」「コーチ」を名乗る人はどうでしょうか?

これは、自戒を込めて申し上げますが、多くの人に「クライアントの人生を預かる」という認識はありません。自分の態度や思わぬ一言がクライアントの人生を左右しているという自覚が不足しています。

資格をとることも大切かもしれませんが、それよりも遥かに重要なのは、人の心を扱う側が自分自身と向き合い、人の人生を一時的にでも預かるという自覚を育てることです。

それなくしては、どんな資格も宝の持ち腐れです。